日本経済再生本部(第4回)議事要旨

Ⅰ.日時/場所

平成24年11月6日(火)10:00~11:00/党本部 702号室

Ⅱ.議 題

  • 日本経済再生へ向けた方策について有識者ヒアリング
  • 演題 ) 日本の強みをどう生かすか
  • 講師 ) 平野 英治 トヨタファイナンシャルサービス株式会社 取締役副社長

Ⅲ.講演要旨

【1.はじめに(現場から見た国際金融)】
日本銀行時代、1997年に初めて国会を担当するポストが新設され、初代の審議役となった。行員最後の7年間は国際局長、国際金融の担当理事としてインターナショナルな仕事をしていた。2006年にトヨタファイナンシャルサービス(以下、TFS)に移ってからは、年間の1/3ずつを東京、名古屋、海外で暮らしている。現在の担当は海外を中心とする販売金融事業、リスク管理など。日銀時代は国際会議の舞台が多かったが、今はビジネスの最前線を駆けずり回っている。
日銀時代は「理屈」で考えることが多かったが、現在は現場の中で発想、行動しており、見る角度が違う。ただ、多かれ少なかれ国際金融に携わっているという意味では同じ。
TFSはグループとして中国を含む世界34カ国で展開している。バランスシートで12兆円、営業利益では2,500億から3,000億円の比較的大きなグローバル金融機関。トヨタは借金をしないことで有名だが、TFSはトヨタの100%小会社であり、実は連結するとトヨタグループはおそらく日本で最も借金が多い企業となる。その借金は専らTFSによるもので11兆円の負債がある(うち40%社債、30%銀行借入、20%短期の社債、10%証券化に似た手法)。世界各国から資金を調達していることもあり、世界のマーケットの把握に日々努めている。
【2.日米欧株価推移/為替レート推移
2007年1月以降の「日米欧株価推移」「為替レート」はキーとなるデータ。
株価について、米と独はパラレルに推移し、既に2007年1月(サブプライムローン問題が表面化した時期)の水準を上回っている。日経平均は現在“半分”。2007年1月には1万7,000円台だったことを思い返せば、現在の日本経済を取り巻くセンチメントが如実に現れている。
為替について、相手国があるので一方的な議論はしにくいのは事実だが、議論をしなくて良い訳ではない。ものづくり産業にとっては死活問題であり、きちっと議論して対策が必要。この5年間、圧倒的に円が強い。特に円・ウォンレートは半分。これでは競争力の維持もままならない。急激な円高に振れると輸出企業にとっては大打撃。
【3.トヨタと現代 】
ベンチマークとしてトヨタと韓国の現代が取り上げられるが、主要なマーケットでトヨタは現代の激しい追い上げを食らっている(既に中国市場は抜かれている)。
5年前の現代自動車は、売上がトヨタの2割、株価時価総額は1割だった。現在、売上はトヨタの3割、時価総額は5割(GMを抜きVWと並ぶ)。躍進著しい。
現代の強み:〔内部要因〕保守的なデザインのトヨタ車に比べてカッコ良い、シャープなデザイン。「性能の良い車はトヨタに作ってもらいましょう。我々はデザインを良くして売ります」との現代車のデザイナー談。方向を明確にしている。かつて「技術の日産、販売のトヨタ」と言われたが、今は現代が「マーケティング」に注力。現代とトヨタ、ホンダの時間当たりの労賃を比較すると、為替の影響を受ける自国生産では現代がトヨタ、ホンダの5~6割。一方、同じ米国生産で比較しても6~7割。現代は後発なので、労賃の安いところで生産している。人件費がコストの全てではないが、「コスト競争力」を象徴している。
〔外部要因〕【為替】、5年間で5割も円に対してウォンは安くなった。日本にとってはハンデ。【電気料金】、韓国は日本の半分で日本は高い。国内投資及び海外からの投資を呼び込むためにも将来の電力の絵姿は、為替またはそれ以上に重要なファクター。FTA、関税がゼロになる地域のカバーが韓国の方が広い。
【4.新たな環境 】
“ニューノーマル”(米国の債券運用会社PIMCOの最高責任者、モハメド・エラリアン氏が提唱)とは、「(リーマン・ショック後)世界経済は立ち直るが、これから出てくる世界は古き良き世界とは違うものだ」。現在、この概念が注目を浴びている。以下、ニューノーマルの5つのポイント。
① 金融が肥大化して実体経済を大きく揺さぶるのはおかしいのではないか。金融資本主義に対する反感と反省。これがレギュレーション強化の動きへ。
② 膨大な借金をして投資をして利潤を追求することに傾いたことが信用バブル膨張の温床となった。あまり借金をし過ぎるのも良くない。これまでのレバレッジを効かせたビジネスへの反省。大事なのは実体経済活動であり、それを支えるのが金融ではないかという回帰。
③ 米国一極から新興国(特にアジア)への大きなパワーシフトが起きている。中国とインドが“新興国”かという疑問もあるが、パワーシフトというトレンドは変わらない。アメリカ一極というのはある意味安定した時代だったが、多極化により不安定に。世界経済へのインプリケーションは有る。
④ 不透明、不安定な環境が常態化。リスクは多々有り、1つがユーロ危機。10年程度の時間を要すると思うが、その紆余曲折の中で世界経済が大きく動揺、最終的には財政へ行く。ユーロの帰趨をどう考えるか。他にも日本のマスコミでは取り上げられないが、シリアの問題、イラン・イスラエルの問題等、どうしようもない面もあるが、世界経済が不安定であるということを1つの要素として意識していく必要がある。
⑤ 政治の“舵取り”が一段と重要に。
【5.日本の立ち位置 】
日本は“ニューノーマル”の考えに即したアドバンテージを持った国。
日本にあるもの:バブル崩壊の経験を経た安定した金融力、実体経済を支える技術、文化、民力(労働の質)、アジアに位置する地理的有利性、Social Capital(社会の安定)。特に大きなアドバンテージなのは社会の安定。腰を据えて中長期の戦略を実行する環境は整っている。
日本にないもの:戦略的構想力、舵取り、やる気。これがあれば日本のアドバンテージが活かせる。
【6.中国リスク 】
中国にとって“井戸を掘った”パナソニックの工場が自らの労働者によって破壊されたことは、中国楽観論者であった私もショックを受けた。難しい局面と認識している。
【岐路に立つ中国経済】。「国進民退」という言葉があるが、国営企業のシェアがアップし、民間企業のシェアは下がっている。中国政府はリーマン・ショック後に4兆元の景気刺激策を実施したが、その大部分を国営企業が独占しているインフラ投資に充てられる等、官の肥大化が進む。ひいてはそれが経済のゆがみを招いている。
【「戦略的互恵関係」の再構築】。事業環境は政治と外交に大きく左右される。中国リスクは意識せざるを得ないが、されど中国。有力なマーケットと見る方針はにわかには変えられない。民間企業にできることは限られているが、推移を注意深く見守っている。
中国リスクがこれまで以上に意識され始めたことは疑いのない事実。
【7.政治への期待 】
成長の源泉はいかに民間の力を活かすかということ。民間の力を引き出すための「制度・規制の徹底した見直し」。例えば、医療、農業、教育、「特区」の活用等。コンプライアンス不況という言葉があるが、労働規制の壁はままならない(ex.残業規制を研究者や新聞記者にも適用することが正しいのか)。
企業が設備投資をする場合、予見可能性が低いと行いにくい。予測可能な事業環境の提供がカギ(税と社会保障、エネルギー、TPP、東アジア経済圏構想、日中のしたたかな外交)。現状、議論ばかりで展望が全く無い。不確実性が高いものを縮める、低減する努力を。
機動的な経済政策運営は当たり前。政府にとっては力強い成長戦略であり、日銀にとっては力強い金融緩和。為替について、もう少し議論を深められないか。日銀は「為替は財務省の管轄」と言うが、財務省は為替について何か言っているか。為替の議論を提起することが国際社会への牽制に繋がる。企業は円高になるとコストカット、賃金カットを行い、これがまたデフレの要因に繋がっている。円高・デフレ均衡という悪循環を止める1つのポイントとして、『為替』をどうするかが重要。
資本市場の活性化、古くて新しいテーマだが重要。株式市場に活気が無い。個人のポートフォリオが預金に偏っている現状は本当に良いのか。税制の問題に加え、世の中の雰囲気として、株は特殊な人がやるものというイメージがある。コンプライアンスを重視するあまり、金融関係者やマスコミ、上場企業の役員は実質、株を買えない。投資しているのはデイトレーダー、退職した高齢者と外人。誰でも投資できる環境を整えることが政策的に重要。
最後に、確かな「実行」。私どもの言葉で「やり切る」。何か1つでも良いから実行して頂きたい。