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日本外国特派員協会(FCCJ)での講演

 

・6月14日に政府はこれからの成長戦略、「日本再興戦略」を策定した。本日は今後の日本の成長戦略と国際展開戦略についてお話ししたい。

 

・お配りしたお手元の資料の1ページ目をご覧頂きたい。
・安倍政権が発足して半年が経ち、日本経済には明らかに回復の兆しが見え始めている。前政権下の昨年7-9月期の成長率は、年率▲3.6%のマイナスだったが、安倍政権発足後の足下2013年1-3月期の成長率は、+4.1%のプラスとなり、まさに政権交代を経て、経済成長は「ネガ」から「ポジ」へと転化した。この成長は、過度な円高が是正され景況感が改善し、デフレマインドが解消する中で、輸出と消費が牽引した結果。
・一方、設備投資については相当改善しているが、引き続きマイナスのまま。大胆な政策により、これをプラスに転換させ、民間主導の持続的な経済成長を実現していくことが今、最重点課題。

 

・そのためには、日本経済の3つの歪み、すなわち「過小投資」「過剰規制」「過当競争」を直すことが必要(P2)。これにより、企業が投資を拡大し収益力を向上させ、これが個人の賃金や所得の向上につながり、さらに消費や市場が拡大し、再び企業の投資を呼び起こす、という好循環を実現していく。

 

・まず「過少投資の是正」(P3)。この半年で打って来た緊急経済対策(10兆円)はじめ一連の政策で今年度の設備投資を2兆円押し上げることを見込んでいる。さらに、今後3年間で設備投資を10%増加させ、リーマンショック前の70兆円以上に戻していく。どうやっていくか。生産設備の新陳代謝を促進する税制措置を始め、これまでと次元の異なる大胆な支援策を講じる。

 

・具体的な産業競争力強化に向けた税制として、3本柱を検討している(P4)。
・第1に民間設備投資の喚起。老朽化した生産設備から生産性・エネルギー効率の高い最先端への設備の入替え等の思い切った設備投資をこれまでとは次元の異なる規模とスピードで促していく。このため設備の「即時償却制度」などこれまでにない大胆な支援策を導入していきたい。
・第2に新事業創出の促進。企業によるベンチャー投資や、大企業からの独立(カーブアウト)を税制面で応援する。これにより開業率を大幅にアップしていく。
・第3に事業再編の促進と「過当競争の解消」(P5)。事業再編を進めるには何よりまず、経営者の決断が必要。国も思い切った税制・金融措置で、収益力を高める経営改革を後押しする。
・アメリカではLLCという制度がある。会社が事業を切り出して新会社を作る場合、新会社の赤字を、出資企業が損益計上できるようになっている。こうした措置を日本にも導入することを検討し、大胆な産業再編、事業再編を進めていく。
・これらの政策を進める上で税制改正が大きなポイントになるが、「税制改正は年末に決める」という従来のスケジュール感にはとらわれずに、秋には具体案を決定していきたい。
・さらに、設備、事業だけではなく人も動かす(P6)。行き過ぎた雇用維持型から労働移動支援型へ雇用政策を大転換する。成熟産業から人材を必要とする成長産業へ、労働者のスキルアップやスキルチェンジにより、失業を経ずに円滑に労働移動ができる柔軟な労働市場を目指す。厚労省ともこの点の協議を進めており、7月には経産省と厚労省の間でハイレベルの人事交流も行う。

 

 

・一方、過剰規制の改革にも積極的に取り組んでいく。例えば、自動車の自動走行の実証実験を公道で行うことを特例的に認めるような、これまでの地域単位ではない「企業版特区」導入も検討していく。
・社会保障や、エネルギー分野には、これまで岩盤規制と言われる様々な規制が存在している。電力事業の地域独占体制を根本から見直し、電力の自由化、広域系統運用、送配電事業の分離を進める電力システム改革も岩盤規制改革の典型例。
・このための電事法の改正案が衆議院で可決され、参議院でも出口まで来ていたのに、最終盤の参議院の混乱で廃案となってしまったことは極めて残念。来たるべき参議院選挙で衆参のねじれを解消し、電力システム改革をはじめとした岩盤規制の改革にスピード感をもって取り組んでいきたい。

 

・日本経済を、メタボ体質から国際競争に勝ち抜く筋肉質の構造にするため、秋の臨時国会に向けて、『産業競争力強化法案』を策定していく(P7)。民間投資の拡大、新市場の開拓、事業再編の促進を中核に政策パッケージを策定し、あらゆる政策資源を集中的に投入する。これにより、民間投資と所得の増大による自立的・持続的な経済成長を実現していく。

 

・また、成長戦略では、海外の成長を取り込む「国際展開戦略」も、大きな柱となっている(P8)。そのため、まず、国益の確保を前提として、多角的な経済連携交渉を積極的に進める。TPPだけでなく、アジア・欧州のすべてを取り込み、世界に『経済連携の網』を張る。

 

・しかし、『経済連携の網』を張るだけでなく、実際に『魚をとる』ところまでたどりつかないと意味がない。いわゆる新興国は、それぞれ市場の置かれた状況がまったく違うにもかかわらず、これまで一括りに扱われてきたが、今後、新興国を3つのグループに分けて、戦略的に市場開拓に取り組みたい(P9)。

 

・まず、①既に現地で相当程度の産業集積、サプライチェーンを形成している「中国・ASEAN」は、日本にとって「絶対に失えない、負けられない市場」である。日系企業のサプライチェーンの高度化等を通じて「更に深く」、また消費市場が拡大している中で「更に幅広い」産業の進出を促し、『FULL進出』で市場を取り込んでいく。

 

・次に、②成長市場でありながら、地理的要因・文化的要因から日系企業の進出が欧米企業や韓国企業に比べて遅れている「南西アジア、中東、ロシア・CIS、中南米」については、いわば『逆転』を目指さなければならない。このため、『クリティカル・マスに到達』することを目指す分野を絞って、集中的に取り組んでいく。

 

・さらに、③資源が豊富で今後、市場が拡大する期待が高いにもかかわらず、日系企業の進出が進まず、いわば『不戦敗』状態となっているアフリカについては、とにかく『まず一点、一つでも多くの成功事例』を生み出すことを目指す。このため今年は5月、  6月に「日アフリカ資源大臣会合」「TICADⅤ」を続けざまに開催し、これに合わせて大規模な投資セミナーなども行った。

 

・このように地域を軸に3つのグループに分け、P9の下段にあるように『日本企業の海外展開支援』、『インフラ・システム輸出』、『相手国からの資源供給確保』の重点3分野について、地域毎に整理して、タテ軸、ヨコ軸に戦略的に取り組んでいく。